指先から溢れるほどの愛を


ーーーーそしてこの驚きの出来事から三ヶ月後の九月。 

ようやく予約が取れた私は、ドキドキしながら半年ぶりに坂崎さんのヘアサロンを訪れたのだった。


「おう、ミーコ。来たな」


藍色のドアを開けばレセプションカウンターにいた坂崎さんが私に気付き、最後に見た時と何ら変わらないあの顔でにやりと悪戯っぽく笑った。


「……はい、あの時のお礼をしに来ました」


覚えてくれていたことにホッとしながらも、まだドキドキしている胸を無意識に抑えながら答える。

店内には他にお客様はいないようで、坂崎さんの他にスタッフと思われる若い男性と女性がいるだけだった。

その二人のキラキラした視線が奥から物凄く刺さって来る気がするのは気のせいだろうか。


「つーか来るの遅くねぇ?落ちたと思ったじゃん。内定って六月とか、そんくらいに出るもんだって聞いたけど?」

「や、そうなんですけど、坂崎さんのお店がなかなか予約が取れないから」

「え、まさか正攻法で予約取ろうとしてくれてたの?」

「え?正攻法以外にどんな方法があるんですか?」

「あー、ひょっとして名刺の裏、見てない?」