「私ね、小さな頃から 勉強が好きで 成績は良かったの。フフフッ、荒物屋の悦ちゃんは 頭が良いって ご近所で ちょっと有名だったのよ。一番上のランクの 都立高校に 通っていたんだけど。今ほど 大学に進学する人って 多くなかったの。私と入れ違いに 高校を卒業した兄も そのまま就職したし。だから 進学校に入学したけれど 私 大学は諦めていたの。」


「高校の勉強は 楽しかったから 高校でも 成績は良かったんだけど。3年で 進路を決める時 就職しますって言ったの、私。先生、すごく反対してね。親を呼び出して 私の進学を 勧めてくれたの。両親は 私が望むなら 進学させるつもりだって言って。親に 叱られたわ。“ 悦子を 大学に行かせるくらいの お金はある ” って。」



「その先生が お母様に進学を 勧めていなかったら お父様と 出会わなかったんですね。」

私が ポツリと 言葉を挟むと

「そうねぇ。」

お母様は 優しい笑顔で 私達を見た。

「それが ご縁っていうことなのかなぁ。」

いつも お母様が言う 『ご縁』という言葉を

今日は お姉様が 使う。



「私が K大に合格した時は 近所中が 大騒ぎになったのよ。みんなが 自分のことみたいに 喜んでくれて。私のことを知らない 自分の親戚にまで 自慢して。誇りみたいに 言ってくれるの。そういう環境で 育ったから。私、お父さんと結婚しても やってこれたんだって思うわ。」


お母様は お父様と 出会ったことで

全く 違う環境に 飛び込んだ。


私が 智くんと 出会って

知らない世界を 見たように。