「私ね だから家族を 大切にしたいの。家族の中で 誰かが 嫌な思いをするなんて 悲しいでしょう。家族でいる時間は いつも楽しく 笑っていたいの。そのために 私にできることは 何でもしたいと思うわ。
沙織ちゃんも麻有ちゃんも 私の願いを 叶えてくれて。いつも 仲良くしてくれるから。お父さんも私も 本当に幸せよ。
家族仲が悪い人に 経営者なんて 務まるはずないもの。
紀之と智之が あなた達を 選んだことを 私は 誇りに思っているの。
家族みんなが お金で買えないものを 私に 与えてくれるんだもの。」
「でも。それは お父様とお母様が 築いてくださった 豊かな生活があるから。だから 私 心に余裕ができるんです。」
まるで 私の気持ちを 代弁しているみたいな お姉様の言葉。
「子供達が 素直なのも 私に 余裕があるからだって。私も いつも思っています。」
私が お姉様と 頷き合いながら言うと
「あなた達は いつもそんな風に 思ってくれるから。だから 幸せが 増えていくのよ。」
とお母様は とても優しい笑顔で 答えてくれた。
もし私だったら お母様の苦労を 乗り越えられなかったかもしれない。
淡々と 過ぎたこととして 話してくれたけれど。
悲しみや 苦しさを 乗り越えた お母様だから。
私達は こんなに お母様に 癒されるんだろう。
お母様の 悲しみを 理解して支えた お父様だから。
私達は いつも 安心して 伸び伸びとしていられる。
こんなに 素敵なご両親から 生まれ育った人と
結婚して 家族になれたことを 私は 本当に幸せだと思った。
「すっかり長話しを しちゃったわ。この話し、紀之達には 内緒よ。」
お母様は 少し恥ずかしそうに 私達の顔を見た。
「えっ。でも 紀之さん 多分 知っていますよ。前に 親戚に意地悪な伯母さんがいるって 言っていたから。」
お姉様は 気まずそうに お母様に言った。
「そう言えば 智くんも 変な従姉弟が 一人いるって 言っていたことがあるから。もしかしたら 気づいているかもしれない。」
私も お姉様の言葉に 思い出して 言った。
「違うわよ。お義姉さんのことじゃなくて… お父さんとの、昔の話し。」
お母様は 照れくさそうに 私達に答えた。
「ああ。お父様と パンを半分こした話しですね。」
私が 笑顔で答えると
「ちょっと、麻有ちゃん。半分こなんか してないわ。」
お母様は 慌てて 顔を赤くした。
お姉様が ケラケラと 声を立てて笑う。
私は いつか 今日のことを 智くんに 話してしまうだろう。
こんな素敵な話し 私が 独り占めしてしまうなんて もったいないと 私は思っていた。
~end



