「その日は お義姉さん達が来るって わかっていたから。政之さん 早く帰って来たのね。私 玄関で 政之さんを出迎えて。政之さん 私を 一目見て
『何かあったの?』って 聞いたわ。それくらい 私の表情は 強張っていたの。部屋に入ってすぐに 私 全部話したの。政之さん ひどく驚いて。
『わかった。悦ちゃんは 姉さん達に 一切 係わらなくていいから。』って言って。
『俺、挨拶だけして すぐ戻るから ちょっと待ってて。』って 政之さんは 客間に向かったわ。
私 政之さんの顔を見たら 涙が出ちゃってねぇ。それまで 泣いたことなんて なかったから 政之さんの前で。きっと 安心したのねぇ。この家で 私の味方は 政之さんしか いないんだもの。すごく心細かったの。政之さんも 驚いたんじゃないかなぁ。私の 泣き顔 見て。」


「お義姉さん達 一週間くらい いたの。お義兄さんは 昼間 仕事に行って 夜になると 戻って来て。でも その間 お義姉さんと私 一言も 話さなかったのよ。家が広いから 鉢合わせしないように 気を付ければ それほど 接触しなくてもすむのよ。広い家っていうのも 良し悪しよね。
私の実家みたいな 小さな家なら 嫌でも 顔を付き合わせるから。仲直りの機会も できるけど。接触しないのは 助かったけど。やっぱり それじゃ 何も解決しないもの。
気をつけていても 何度か 鉢合わせしちゃうことが あったけど。お義姉さんは 完全に無視したわ… 私のこと。まるで 居ない者みたいに。無視って 最低のことよねぇ。存在を 全否定されるわけじゃない。だんだん心が 病んでくるの。」


「私は 一日中 部屋にこもっているわけにも いかないじゃない。いくら 女中さんがいるって言っても 家事だってあるし。
お義姉さんが 来るまで、私が 家事をしている間 廣澤の義母が 紀之を見ていてくれたけど。でも義母に 紀之を頼めないから 私 紀之をおんぶして 家事をしたわ。
一段落して 紀之を 庭で遊ばせていると 姪の千恵ちゃんが 客間から 覗くのよ。まだ3才くらいだもの。閉じ込めておいても 飽きちゃうじゃない。私が そっと手招きすると 客間から出て来るの。紀之も 千恵ちゃんを見て キャッキャッて喜んでね。
一緒に遊んでいると お義姉さんが 気付いて。千恵ちゃんを 呼び戻すのよ。英語で 捲し立てて。千恵ちゃん、弾かれたように 戻って行くの。
お義姉さんが 私を嫌っていても 紀之と千恵ちゃんは 従姉弟なのよ。血が繋がっているんだもの。仲良くさせてあげたいじゃない。驚いちゃうわ。」