「廣澤の義母は 実家が裕福で お嬢様育ちだったの。おっとりした 家庭的な人だったわ。家の中を いつも丁寧に 整えていて。女中さんの扱いも 上手かったし。お金持ちの家庭で 育った人だから。そういうことも 自然にできたのね。どんなことでも 義父の意見を 聞いていて。義父には 絶対に 逆らわなかったわ。
私の実家は 母が父に 意見したり。対等に 口喧嘩していることも あったから。義母を見習わないとって 思う部分も たくさんあったのよ。
ただ 政之さんは 義父と義母のような よそよそしい関係よりも 私の両親みたいな 何でも意見を言い合える 夫婦になりたいって 言ってくれてね。仕事のことも 詳しく 話してくれたわ。私には わからない話しでも。『悦ちゃんは どう思う?』って。いつも聞いてくれて。私 わからなくても 政之さんの話しを聞くことが 楽しかったの。」


「私、結婚してすぐに 紀之を妊娠したのね。子供を授かったことは すごく嬉しかったし。政之さんも 義父や義母も すごく喜んでくれたけど。廣澤の家での生活に まだ慣れてないし。私 つわりが 酷かったから。苦しかったわ。しばらく 何も食べられない時期があってね。その時 廣澤の義母に
『これじゃ 赤ちゃんが 栄養不足で 五体満足に 育たないんじゃないの。』って言われたの。結構 傷付いたのよ。自分でも 栄養取りたいって わかっているじゃない。だけど 食べられないのに そんな風に言われて。トイレで こっそり泣いたわよ。フフフッ。私も まだ 若かったから。」


「義母には そういう所があったの。悪い人じゃないんだけど。無神経に 思ったことを 口に出すの。私も だんだん わかってきて。何年か経つと 気にしなくなったけど。ただ その頃は 嫁いで 日も浅いし。義母の性格も よくわからなかったから。無闇に傷付いてしまったの。
それで 政之さんが帰ってくると 告げ口するの。『今日は お義母さんに こんなこと 言われたの』って。そういう時 政之さんの対応って 今考えても 見事だったわ。
『そんなこと 言われたの?それは 悦ちゃん 傷付いたね。辛かったでしょう。』って言って。ただ 私の気持ちに 寄り添ってくれるだけなんだけど。
もし “ お袋が酷いこと言って ごめんね ” とか お義母さんの代わりに 謝られたら 私 もっと 嫌な気持ちになったと思うの。かと言って その場で お義母さんを 責めたら 角が立つし。昼間 お義母さんと一緒に居るのは 私だから。
政之さんは わかってくれたって 思うだけで 私 なんだかホッとして。
『ううん。大丈夫。お義母さんも 心配してくれているんだと思うから。』って言えるの。不思議よね。」