「少しの間 みんなが黙っていて。最初に 声を出した人が 負けみたいな空気って あるじゃない。 

『悦子は すぐに会社を辞めて お料理や 行儀作法を 習わないといけないなぁ。こんな 跳ねっ返りじゃ 恥ずかしくて 政之君の親御さんの前に 出せやしないよ。』フフフッ。沈黙を 破ったのは 私の父だったわ。やっぱり 折れた人が 最初に 声を出すのよね。

『ありがとうございます。』って 政之さんは 座布団から下りて 頭を下げたの。

『お父さん…』私は ありがとうって 言えなかった。なんだか 胸が詰まるみたいな 気持ちになってしまって。政之さんと一緒に 深く頭を下げたの。

『悦子は 気が強いから。政之君 負けるなよ。ハハッ…』って 父は 気持ちの良い笑顔に なったけど。

私は 涙が零れそうで グッと奥歯を噛んで 堪えていたの。大人になってから 親の前で 泣いたことなんて ないじゃない。何か 恥ずかしくてねぇ…」


お母様は 柔らかくて 温かい笑顔になった。

お母様のご両親は きっと 素敵な人だったんだろうなぁ。


お母様の 根本にある 優しさや正義は

ご両親から 受け継いだものだと思う。


お父様は お母様の優しさに 気付いたから

どうしても お母様と 結婚したいって 思ったんじゃないかなぁ。


私が 智くんと出会えたことも

絵里加と壮馬を 授かったことも


今の こんなに幸せな 毎日があることも…


全部 お父様とお母様が 結ばれたから。


「私 お母様のご両親に お父様との結婚を 許して下さって ありがとうって 言いたいです。」


お姉様は 真剣な顔で お母様を見て 言った。


私も 全く 同じ気持ちだったから。

驚いて 一瞬 絶句してしまった。


「ありがとう。きっと 私の両親も 天国で あなた達の声 聞いているわ。」

お母様が 優しく 私達に言うから。


やっぱり 私の涙腺は 崩壊してしまった。


「もう… 泣かないでよ、麻有ちゃん。本当に 泣き虫なんだから。」


本当に… 私は いつから こんなに 泣き虫になったのだろう。


智くんと結婚できて 本当に良かった。


こんなに 素敵な家族の 一員になれて…