「ようやく 第一関門を突破して 日曜日に 政之さんは もう一度 ウチに来たの。
『お義父さん、改めて… 悦子さんと 結婚させて下さい。』って。もう一度 私の父に 頼んでくれたの。
『先日 政之君のお父さんに お会いしたけど。立派な方だねぇ。喜んで お受けしますって 言いたいところだけど。俺は やっぱり 賛成できないなぁ。』って 父は 言葉を濁したわ。
『悦子さんのことは 僕が 責任を持って 守ります。どうか お願いします。』そう言って 政之さんは 頭を下げてくれたけど。
『悦子。政之君と結婚するって どういうことだか わかるか?』って 父は 私に聞いたの。
『もちろん。政之君を支えて 政之君が 安心して 仕事ができる 家庭を作るわ。』私 生意気に答えたけど… 本当は 何もわかっていなかったのよねぇ。
『悦子が 思っている家庭と 政之君の家庭は 全然 違うんだよ。政之君は 将来 社長になる人なんだ。悦子には 想像できないような 苦労をし続けて 会社を守っていかなければ ならない人なんだ。悦子は そんな政之君を どうやって 支えるつもりなんだ。』父は 静かな口調で とっても厳しいことを 言ったわ。
『政之君も 今は 悦子を守るって 言ってくれるけど。社長になって 会社を守らなければいけない時に 悦子に構っていることなんて できないだろう。』私の父は 政之さんにも そう言って 釘を刺したの。
『確かに 僕はまだ 社会の厳しさは わからないし、どうすれば 会社を守れるのかも わからないけど。でも 悦ちゃんを守れないなら 会社なんて 到底 守れないような 気がします。家に帰れば 悦ちゃんがいてくれる…それだけで 意欲が湧いてくるし。悦ちゃんを 幸せにするために 仕事を頑張りたいんです。』って。政之さんは 飾らない言葉で 正直に答えてくれたの。
『私も 政之君が 安心して 仕事ができるように 全力で 家庭を守りたい。廣澤家の 家風やしきたりも ちゃんと学んで お義父さんやお義母さんに 信頼してもらえるように なります。』やっと 廣澤の義父が 結婚を認めてくれたんだから。何とか 私の父を 説得しなくちゃって 思って。私も 必死で答えたわ。」
お母様の瞳には うっすら 涙が浮かんでいた。
その時のことを 思い出しているのか…
自分の親のこと、お父様のこと、
そして その時の 自分のことを。



