「廣澤の義父は 私の親に 会って話してみようって 思ったらしいの。実家の住所は わかっているじゃない。フラッと お店に行ってみたんですって。

廣澤の義父が 名乗ると 母は驚いて 父を呼んで。店先でする 立ち話しじゃないから いつも ご近所さんが たむろしている 店の奥の小さな座敷に 上がってもらって。応接間や客間なんて 私の実家には なかったから。廣澤の義父は 驚いたでしょうね。狭い座敷で ちゃぶ台を挟んで 私の両親と 向かい合って。フフフッ。」



「その時 私の父は

『悦子は 身の程知らずで 本当に 申し訳ありません。』って 頭を下げたんですって。

『私達も 政之君の身分を 知らなかったとは言え 政之くんと 普通に接してしまって。お恥ずかしい限りです。でも 大丈夫です。悦子のことは 私達で 諦めさせますから。どうか ご安心下さい。廣澤さんは 政之君を 説得して下さい。』って 父は 言ったらしいの。

『それで いいんですか?』って 廣澤の義父は とても驚いたんですって。

ほら もしかしたら 玉の輿狙いとか、そういうことも 心配していたんじゃないかしら。

『いいも何も…こんなに 格の違うお宅と 結婚して やっていけるわけありません。悦子は まだ そういう事の意味を わかってなくて。政之君もですが。結婚は つり合いが 大事ですからねぇ。』って。父は しみじみ 言ったらしいわ。

『実は 政之が 結婚を 認めてくれないのなら 会社は継がないって 言っていまして。わがままに 育ててしまって お恥ずかしい話しですが。最近は 職探しなんかも しているみたいで。もう 途方に暮れています。』廣澤の義父は つい本音を語ってしまったって 言っていたわ。

『もう 政之君は… 親不孝だなぁ。廣澤さん、自信を持って下さいよ。政之君だって 親の有難味が わからない青年じゃないはずです。ここは 廣澤さんが ドーンと 強気に構えていないと。そんなことを言うなら 金輪際 親でも子でもないって 言うくらい。政之君は 親を捨てるはずないですから。子供に舐められたら 駄目ですよ。』って。

私の父は 廣澤の義父を お説教したのよ。もう 本当に 恥ずかしいわ 私…フフッ。」


「廣澤の義父はね、私の父の言葉を聞いて 結婚を許す決心が できたって言ったわ。私のことを この親の子供なら 大丈夫って 思ってくれたらしいの。

『今日は お話しできて 本当に良かったです。政之が どうしても 悦子さんと結婚したいって言う理由が 少しわかりました。私からも お願いします。悦子さんと政之の結婚を お許し下さい。』って。

廣澤の義父に言われて 私の父は 目を剥いて 驚いたらしいわ。クスッ。その日の夜 政之さんから 電話があって。結婚の許しが出たって。私の父 そういう事は 何も言ってくれなかったから。『えーっ。嘘でしょう?』って。私 絶句したのよ。」