立ち上がることも逃げることも間に合わず、佳奈はギュッとフルーツナイフの柄を握りしめた。


得意の護身術も、こんなに足場の悪い場所では使いこなすことができない。


今自分を守るものは、このナイフしかなかった。


それでも相手の手とは比べ物にならないくらい短いものだ。


運良くこれで刃を受け止めることができたとしても、次々と攻撃を交わすことは不可能だ。


黒い化け物が手を振り下ろしたその瞬間だった。


ザッ! と音がして明宏が目の前に立った。


バッドを振り上げて化け物めがけて振り下ろす。


佳奈はその様子を呆然として見つめていた。


男子3人の中では一番喧嘩とは縁遠い明宏が、必死になって黒い化け物と対峙している。


「佳奈、逃げろ!」


明宏に言われてようやく我にかえった。


慌てて立ち上がり、すぐにナイフを握り直す。


逃げろと言われてもここで逃げられるわけもない。


佳奈は明宏に視線を奪われている黒い化け物の背後に回り込んだ。