「じゃ、俺そろそろ戻るわ」
ひととおり琳果との言い合いが終わると、葛葉がわたしを見た。
わたしの表情の機微を、見透かそうとする彼の瞳は相変わらずだ。
こくりとうなずくと、葛葉は身を翻して教室を出ていった。
時間にして約5分。
ただそれだけのために、わたしの教室に来るのだから葛葉は侮れない。
「ほんと、八代は謎だなあ……」
葛葉が出ていった扉を見つめている琳果は、そう小さくつぶやいた。
心底不思議そうに首を傾けている様子に、わたしは少し苦笑いを浮かべる。
「たぶん、葛葉は中学のときと同じで、わたしのこと気にかけてくれてるんだと思う」
「でも、もうあんたたち別れてるんだよ?しかも、八代のほうから振ってるのに……」



