「別に言いたくなかったら、いいけど」
うつむいているわたしに、吉良くんの落ち着いた声が降ってきた。
少し距離を取るような言い方に、肩を縮こまらせる。
お互い探り探りの状況下で、発する言葉ひとつに敏感になっているように思う。
どうしよう……。
このままじゃ、せっかく吉良くんから声をかけてくれたのに、嬉しさを伝えられないで終わってしまう。
もしかしたら今日で愛想つかれてしまうかもしれない。
そんなの、やだ。
そうなったら、新しいハンカチも渡せず仕舞いになる。
ぜんぶ堂々巡りで、なにが正解なのかわからない。
でも。
いまわたしができること。
それは、吉良くんにうそをつかないことだと思った。



