階段をゆっくり上った。
キシッと木の鳴る音がした。

私が産まれてすぐくらいに建てられたこの家は、私と同い年くらいだ。
十六年間、私はこの家での生活しか知らない。

パパのほうの祖父母がいくらか支援してくれて建てられた家だと思う。

ママのほうの祖父母は、あまり私に会いたがらなかった。
行事ごとなんかでたまに顔を合わせれば、ママとの偏差値の違いや言動とかを咎められる。

誕生日プレゼントなんて貰ったことも無いし、お年玉は毎年直接ママに渡っていた。

「これはあなたへのお年玉じゃないの。あなたを育てているママへのご褒美よ。」

どうしてずっとそう言われるのか、私には分からなかった。
親が子どもを育てることを、どうして私が責められているのか、何でおじいちゃんもおばあちゃんも私に優しくないのか。

今なら分かる。
娘を妊娠させて、捨てた男との子どもだからだ。

けれど祖父母は、私が今日までパパと血が繋がっていなかったことを知らなかった通り、一度もそのことを私に言ったことは無い。

それは、祖父母がパパのことを気に入っていて、おまけにママの救世主だったからだろう。
私の為なんかじゃない。
ママの生活を守る為の手段だっただけだ。

今の私が唯一、祖父母に抵抗できることは、散々私を馬鹿にしていたけれど、“棗くん”との子どもなんだったら偏差値は抜群にいいはずだろってことくらい。

なんて、くだらないのだろう。
どれだけ馬鹿にされようが、そんなことはどうだっていい。

私の家族は、もう誰も幸せなんかじゃないから。

コン、コン。

ママとパパの寝室のドアをノックする。
応答は無い。

最近のパパはリビングに布団を敷いて眠ることが多くなった。
十六年間のパパのことを思うと、今までよりも、もっと胸が痛い。

コン、コン。

ママが居ることは分かっている。
でもやっぱり応答は無い。

「ママ。話がしたいの。“棗くん”のこと。」

カタッと、部屋の中から小さい物音がした。
ゆっくりと、ドアに近付いてくる足音が聞こえる。

寝室のドアが開いて、虚ろな目でママが私を見ている。
部屋着のままで、適当に一つに結っただけのロングヘア。

今のママに、卒アルの写真の頃の面影はあまり感じない。
こんなママを見たら、さすがに深春のお母さんも失望するだろうか。