深春は元々ね、違う高校を志望していたの。
あぁ、ほら。まふゆちゃんの旧友が通っているそうじゃない?

なんて言ったかしら…。
えぇっと…、そう!カホちゃん、だったかしら!?

なんで知っているのかって?
“家庭教師のこと“があった直後だったもの。
深春も興奮気味に話してきたわ。

「まふゆがもっと危ないことに手を出してしまったらどうしよう」って。
この子ったら、本当にまふゆちゃんのことを心配してた。

まふゆちゃん、どうか深春が私達に話したことを怒らないであげてね。
深春はただまふゆちゃんのことが心配だっただけなの。

…そう。ありがとう。解ってくれるのね。

それでね、深春はそこの高校に行きたいって言っていたけれど、「絶対にここにしなさい!」って、パンフレットとかあらゆる資料を深春に披露しては何日も説得したわ。

深春の偏差値なら、合格は絶対に出来ると思っていたし、何がなんでもこの高校に行ってもらわなきゃいけない。
何年も何年も待って、ようやくこの時が来たのよ。

うまくいけば同じクラスになれる。
やっと…。やっとよ!姉妹が運命の出会いを果たすの。

深春が折れて、この高校に行くよって、学校に提出する進路希望調査のプリントを見せてくれた時は、思わず泣いてしまったわね。

私と棗くんの計画が報われる時が来た。
棗くんと冬子ちゃんを再会させるのは少し心配だったけれど、今の私なら大丈夫かもしれないって自信も少しはあった。

同じ女性として。
冬子ちゃんを変わらず愛し、貫いた想いも、同じ、棗くんの子どもの母親としても。

私達はきっと誰も敵わない二人になれる。
そこから私と冬子ちゃんの本当の人生が始まるはずだった。

入学式の日、深春が持って帰ってきたクラス名簿を穴が開くほど何度も見たわ。
ズラッと並ぶ知らない名前達を上から順番に、声に出して読んだ。

心臓がはち切れそうなほどドクドクいってた。
上から順番に読み上げていっても、その時はすぐにやってきた。

その瞬間の一秒。世界が止まった気がしたわ。
”楠 まふゆ“。

おんなじ。同級生から聞いていた、冬子ちゃんのご主人の名字と、棗くんと何度も何度も口にしていた名前。

楠 まふゆ。
あぁ、なんて。なんて愛おしい名前かしら。
神様。神様!この世に神様は本当に居るんだわ。
私達の願いは、夢は届いた。

同じ紙の上に並ぶ深春とまふゆちゃんの名前。
これは、この数年間の私と棗くん、それから冬子ちゃんへの表彰状に見えた。