彼は、そう言って歩き出した。


あの日、手を繋ぐのを拒否してから彼は絶対私に触れてこない。


そんな優しさに感謝しながら、私も歩き出した。


それからも私たちは、水族館を満喫した。


「もうそろそろ、帰らなきゃね」


時計は5時半を指している。


電車で30分くらいかかるから、着く頃には真っ暗だ。


「早いね」


「うん。楽しかったからかな」


「そっか。よかった」


その時の悠くんの覚悟を決めたような表情を見てしまった。


「帰ろっか」


その表情を和らげて私にそう言った彼だけど、帰り道の口数の少なさは、私でも気づく。


何を覚悟してるかぐらいわかってしまうけど、知らないふりをして接し続けた。


電車を降りて、悠くんは私を家まで送ってくれた。


「悠くん、今日、楽しかったよ。ありがとう」