「え、ここはどこなの。」
放課後。
先生に渡された、神山くんの住所が書かれている紙を見た。
こんなの渡されたってわかるはずない。
神山くんの家は私の家から遠く、方向も真反対だ。
私自身来たこともないし、何もわからない道を歩いていて本当に大丈夫なのかと心配になってきた。
スマホで住所を検索して探してみるも、方向音痴な私をさらに混乱させるだけだった。
たくさんの道と同じような家が建ち並ぶ中、神山くんの家を探すなんて難しすぎる。
私なんでこんなことしなくちゃならないんだろう。
もう辺りは暗くなってきているし、さすがに早く神山くんの家見つけなきゃ。
しかし季節はもう冬だ。
冷たい風が吹く中、短いスカートとブレザーだけではとても寒い。
ちょうど曲がった先にコンビニを見つけた。
少しくらい寄ってもいいよね。
私はそのままコンビニへと入った。
あ、見つけた。
私が手に取ったのは、亡くなったお母さんが好きだったコーヒー。
お母さんは私が小学5年生の時に事故で亡くなってしまっている。
いつもお母さんがどこかへ行く時には必ず飲んでいたこのコーヒーだが、最近やっと飲めるようになった。
「お願いします。」
コーヒーをレジに差し出し、お財布からお金を出そうとしたところ、
「ん?神山…くん?」
店員さんの名札にしっかりと「神山」と書いてあるのが見えた。
「誰ですか」
神山くんの不機嫌そうな声。
やっぱり怖い。
「あ、いや、すみません」
絶対変な人って思われた。
気づいても神山くんって言うんじゃなかった。
「なんで謝るんですか、意味わかんないですけど」
「え、ごめんなさい!」
私は急いでお金を出して、そのままコンビニから出た。
うわー、やっちゃった。
あれは絶対神山くんだった。
多分私に気が付いてないっぽい。
というかバイトしてたんだ。
もうどうやってプリント渡そう。
家もわかんないのにどうするの私!
もうコンビニに入って渡すしかないよね
いやいや、コンビニにまた入っていけるわけないじゃん!
本当絶望的すぎる。
「あの、すみません」
咄嗟に「はいっ」と返事して顔をあげた先に、神山くんが立っていた。
「コーヒー、忘れてます」
ふと手元を見ると、取ったはずのコーヒーがなかった。
「あっ、すみません!」
急いでコーヒーを受け取って逃げようとしたところ、
「俺と同じ高校ですよね?」
と神山くんが言った。
もしかして私のこと知ってるの、いやそんなはずがない。
「あ、制服見たことあるなって思って」
そういえば私今制服だ。
だよね、私のことなんてわかるわけないよね。
「もしかして同じクラスだったりしますか」
私が持ってるプリントを見て言った。
「あっ、はい。一応隣の席でした、、」
そうだ、今だ、今が渡すチャンスだ!
私が神山くんにプリントを渡そうとしたその時、
「おーい、神山。すぐ戻ってこい」
店長らしき人が神山くんに言った。
「すみません,今戻ります。」
「あっ、プリント…」
あっと神山くんは少し戸惑ったが、
「あと30分であがるので待っててもらえませんか」
とだけ言い、コンビニに戻って行った。
あ、行っちゃった。
あと30分だけ待っててくれって、もう帰らなきゃいけないのに…。
だが手に持ってるプリントを持ち帰るわけにもいかない。
しょうがない。
あそこの公園で待つしかないか。
目の前にある公園のベンチに座った。
はぁ、今日はお父さんが早く帰ってくるから本当は早く帰らなくちゃいけないのに。
しかもまだ水曜日。
そして今日席替えしたばかり。
明日が憂鬱だ。
コーヒーを飲んだのに、今日いろいろあったせいで段々と眠気が差してきた。
ダメだ、ここで寝たら。
頑張って起きようと目を開けるが眠気はどんどん増してくばかり。
もう無理だ、少しだけなら…
私はそのまま眠りについてしまった。

