夜9時を過ぎた頃。
寂々とした空間に沈むような吐息が聞こえた。
「ん……」
「由良くん、起きた?」
由良くんが起きた。
でも、まだ意識がはっきりしないのか身体を起こそうとはせず、虚ろに目を開き、鼻にかかる声を聞かせる。
「……いま、何時?」
「9時5分です」
「9時って何時?」
「9時は9時です」
「……は?マジ?……そんな寝てたんだ」
ようやく寝ぼけた世界から戻ってきた。
約4時間半、一度も目を覚ますことなく、多少の物音にも反応せずぐっすり眠っていた。
由良くんは、やっちまった、とでも言いたげに頭を掻いて。
「なんか……いい匂いする」
部屋に微かに漂う匂いに反応した。



