朝陽は喜怒哀楽をあまり顔に出さない。
無表情とまではいかないけど、笑う時でさえふふっと鼻で笑って肩を揺らすぐらいだ。
その朝陽の表情が、今日はなんだか柔らかい。
口元が緩んでいて、目元も下がっている。
いつものどんよりとした負のオーラもない。
「何か、いいことでもあった?」
「え? いいこと?」
「ため息つきながら笑ってるって、かなり気持ち悪いよ」
「僕、笑ってた?」
「うん」
「そうかなあ」なんて言いながら、朝陽は両手で顔を覆った。
「何よ、言ってみなさいよ」
「嫌だよ、凪咲に言ったら、絶対笑うし」
「絶対笑わないから」
「絶対笑わない?」
「絶対笑わない」
私は朝陽の目を真正面から見据えて言った。
朝陽は私に向ける疑いの目を一旦外す。
そして、夜の闇を貫くようなまっすぐな目をして遠くを見た。
その闇の中に、ぼそりとした朝陽の声が放たれた。
「一目惚れ、した」
「……え?」
固まって何も言えなくなる私に、朝陽は再びゆっくりと視線をよこした。
「好きな人が、できた」
ほんとは何を言っても笑ってやるはずだった。
だけど、笑うのを忘れた。
「あれ?笑わないんだ」
「え?」
「だって、僕が一目惚れって……。
それにさ、入学して早々人を好きになるって、おかしいよね。
人を好きになるって、普通相手のことを知って、友達になって、そこから特別な人になっていくのにさ。
僕、世の中に一目惚れなんてありえないと思ってたのに。
まさか自分がと思って」
朝陽は興奮気味にそう話す。
それで、あのため息というわけか。


