「ユーシィ……」

 知らない声があたしを呼ぶ。とても低い(かす)れた声。か細い視界から夕闇が見えた。いつの間にか眠っちゃったんだ。呼んだのはラヴェルなの? って、あんたしか居ないわよね。

 長細いベンチチェストに預けていた身体が、突然物凄い力でひっくり返された。驚きの声も上げられぬまま、あたしは仰向けにされて、その上には顔の両側で手首を拘束する黒い影が見えた。

「ほぅ……予想より良い女に育ったじゃないか」

 ──!?

 だ……誰?

 悪意のある聞き覚えのない声に、あたしは聴覚以外の機能が麻痺した。昨夜ツパイの就寝中かその前に、強盗でも侵入したのだろうか? でも今の台詞……あたしを知っている素振りだ。

 身体の芯から恐怖が湧き上がって、声も震えも出てこなかった。ただひたすら瞳だけは、()し掛かる黒い人物を見出そうと闇を凝らす。どうしよう……ラヴェル、叫んだら聞こえるだろうか? あのカプセルまで少し距離があるし、扉も閉まっているから聞こえないかも知れない。

「ラっ──!!」
「『ウル』を呼んでも無駄だ。私がその『ウル』なのだから」

 ──ウル……?

 それでも何とか唇を動かし、発しようとしたあいつの名は、知らない誰かの名に置き換えられて邪魔された。ウルって誰? 目の前の人??