ロガールさんに別れを告げ、たどたどしい歩みをいささか心配しつつも付いていった操船室にて、ラヴェルは「代わりにやってみる?」と、あたしを操縦席に座らせた。

「大丈夫だよ。ちゃんとサポートするから」
「う、うんっ」

 傍らにしゃがみ込んだラヴェルの笑顔が緊張バクバクのあたしを見上げる。操縦桿を握り締める手はいやに力が入ってしまい、ギリギリと音を立てそうだった。

「覚えてる? スイッチの上げる順序は全部右から左。最後に操縦桿だよ」

 と、あたしの拳を包み込み、レバーから優しく手を放させた。そ、そうだった! 初めての経験とは云えこんなに頭が真っ白になるなんて……。

 手の甲に感じるラヴェルの掌の冷たさが、あたしを次第に冷静にさせた。まだ……きっと本当は随分調子が悪いんだ。それなのにどうしてそうやって、あんたは柔らかい表情を変えないのよ。

「全部電源入ったね? じゃあエンジン回して……うん、音も問題ない。それじゃ浮上するよ? もう計器はいいから正面を見て。ゆっくりレバーを倒して……」

 言われた通りに真ん前の外を見詰める。導かれるようにあたしの手首は彼の込める力に促されて、滑らかに操縦桿を傾斜させ、同時に船はふわりと浮かび上がった。

「いい調子だね! これならきっと一発合格間違いなしだ」
「そ、そうかな~」

 自動操縦に切り替えた後、ニコりと破顔し立ち上がるラヴェルに吊られて、あたしも席を立った。目の前に両掌を向けられたので、たまにはやってやるかとハイタッチに応えようとしたところ、

「ご……めん……」

 まるで貧血を催したように、ラヴェルは左手をこめかみにやり、右手は膝に突いてしまった。

「いいよぉ、謝んなくて! それより休も! 二階まで歩ける?」

 あたしは家畜小屋から助け出した時のように、まだフラフラと眩暈(めまい)の止まらないラヴェルに肩を貸した。頬には脂汗が一筋流れている。そんなに我慢することないのに。ツパイが「根っからの頑固者」と言ったのにも今更ながら納得がいった。