「主人? って……あんた?」
「ううん。ツパだよ」
「え!」

 そ、そうなんだ……? なんでだろ?? あ、もしかして……ラヴェルが倒れた時、一番にアイガーの気持ちを分かってくれたから?

「自分にはもうピータンが居るしね」

 そんな嬉しい言葉を投げ掛けられたからか、ふわふわの飛膜をパタパタ盛り上がるピータンの興奮は止まらなかった。もしかして……この子も誰か大切な人を失って、ラヴェルに救われたのだろうか?

「ラヴェル、余り無理はするなよ。ユングフラウも言っただろうが……君に責任はない」

 ユングフラウ──ツパイのことだ。ロガールさんもやっぱりラヴェルの行為の意味を知っている。

 最後にあいつに掛けたロガールさんの声は、ピンと空気を張り詰めさせた。それでもラヴェルはいつもの淡い微笑を崩さなかった。

「ありがとうございます、ロガール。心には留めさせてもらいます」

 軽く握手を交わして船に乗り込む。今一度お礼を述べたあたしも、アイガーと共に奥へ続いた。

「必ず! 必ず全員で戻ってくるんだぞ!!」

 手を振るロガールさんの白髭の口元が、そう言ったのを背中に聞きながら──。



      ◆第三章◆ウシ、ウマ、ヒツジ・・・ヤギにイヌ!? ──完──