呆れながら席に着いてすぐ、差し出されたミルクたっぷりの珈琲をすすりながら、この異様な展開に頭を巡らせてみる。もしかしてあの雰囲気はあたしを攪乱する為の策略だったのかも知れない。自分には害はありませんよ~なんて、此処に引き入れる為の罠だったのかも知れない!? てか、元々いきなりキスした確信犯なのに、あたしは熟慮もしないで契約するなんて……明らかにお金に目が(くら)んだバカ女ではないか!?

 いや……最後にこちらから提示した「手は出さない」という約束にも、こいつは応じたのだ。例え破られたとしても、いざとなったら股間を思いきり蹴り上げて逃げればいいことだし……? あ! 逃げるって何処に!? 此処は飛行船内で、空の上だった……!!

「ユーシィ? 聞いてる? 返事がないなら、もうパスタ茹でちゃうよ?」

 まるで再びのキスかと思うほどの近さの、眼前に降ってきたラヴェルの顔に突如(おのの)いた。思わず上半身をのけ反らせたが、バランスを崩しかけたその背をすぐさま左手で支えられる。視界には鼻先三センチの距離に能天気な微笑み……こいつ「手は出さない」って本当かなぁ……。