「『あれ』は今後やってもあと一回だから、もう心配しなくて大丈夫だよ。それから、リクエスト。──してもいい?」
「リクエスト?」

 声色の明るくなったそのお願いに、あたしは首を戻して目を丸くした。

「そう……あの初日の、ユーシィ特製スープが飲みたい。具材は有り合わせで構わないから」
「う、うん」

 それくらいだったらお安い御用だ。ロガールさんの許しは後回しにさせてもらって、早速野菜を集めて作ろう、と腰を上げかけたところ、

「あと、もう一つ」
「えっ??」

 ふいに両手首が掴まれて、ぐいっと強い力で引き寄せられた。下半身が追いつけず、前のめりの上半身は横たわるあいつの十センチ上に平行に倒された。

「お姫様、どうか自分に目覚めのキスを」
「ああ~!?」

 体重の掛けられたラヴェルの両手は徐々に下げられ寄せられたが、あたしは重力に逆らうように、その手を軸に腕立て伏せをする! どうにかこうにか体勢を整え一言!!

「誰がするかー!!」

 怒りの形相は変わらぬまま、自力で立ち上がったあたしはその場から駆け出した。後ろからクックと押し殺す笑いが聞こえる。けれど元に戻ったラヴェルの様子に、あたしは心から安堵していた──。