「な、何よ! あんたは散々あたしを触ってきたくせに! どうしてあたしが触っちゃいけないのよっ」

 ラヴェルの背後でピータンが目を覚ましたので、あたしは本能的にその手を振り払った。

「家畜小屋で倒れてたんだ……そのまま寝かされたなら、自分の髪はきっと汚れてる」

 ピータンが肩に乗り、あいつの(おとがい)に頬ずりをする。ラヴェルはそれをくすぐったそうに瞳を細め、手持ち無沙汰になった手でピータンをそっと撫ぜた。

 嘘……こいつは嘘だらけだ。

 本当は苦しみが詰まった髪の先を、穢らわしいのだと言ったくせに。そんなに自分を(おとしい)れて、あんたは一体何をしようって言うのよ!


「……ロガールやツパから聞いちゃったみたいだね」
「……え?」

 再び天井を真正面に捉え、ラヴェルは深い溜息を吐いた。

「ユーシィはすぐ顔に出ちゃうから。自分がどうしてこうなったのか……聞いたんでしょ?」
「……」

 その図星に反論出来る何物もなく。あたしは口元を歪ませて黙りこくってしまった。それでも……やがて何とか二の句を継いだ。

「もう……やめて。お願い──」
「え……?」

 今度はラヴェルが問い掛ける番。

「あんた、あたしを守るって言ったじゃない。そんなんであたしをどう守れるって言えるの? 本気で守るつもりがあるなら──ちゃんとしててよ! あ、あたしはお礼にご飯作ることくらいしか出来ないけど!!」
「ユーシィ……」

 向けられた嬉しそうな表情に思わず顔をそむけてしまう。あたしったら……まったく何を口走ってるんだか!