泣くことがどうにも出来なくなるほど疲れ果てたあたしは、いつの間にか陽の光がオレンジ色に染まるまで、草の斜面に横になり眠ってしまった。

 放牧を終えた家畜達が、連なり我が家へと山を降りる。(つが)いの白馬の内、がたいの良い牡馬(ぼば)の背に担がれたあたしは依然目覚めることはなく、山の奥へ消えていく美しい夕焼けも見られずに帰路へと着いた。夕食の時間まで屋根裏部屋に寝かされて、起こされても尚ぼおっとした頭で食事を進め、気付けばツパイの言葉にも曖昧な理解のまま相槌を打っていた。

 ラヴェルもまた目を覚まさなかった。食事の片付けを済ませたツパイは、呆けたようにロッキングチェアを揺らすあたしを一瞥(いちべつ)した後、再び数時間あいつの看病に集中した。やがて夜も更けベッドに潜り込む頃合いに、これから三日は起きられないのだからと飛行船で休むことを告げ、送るアイガーと共に小さな後ろ姿は闇へと消えた。

「ユスリハ……どうかラヴェルのこと、宜しくお願いします」

 そう頭を下げたツパイにまた、一雫涙が零れて言葉は風になった──。













■此処までお目通しくださり誠に有難うございます。
 本文の重苦しさに添わないのどかな画像で失礼をしております(汗)。
 全て数年前に筆者がスイスを旅した際、撮影をした写真でございます。
 乳牛はスイス原産から改良された「ブラウンスイス」という種類になります。


   朧 月夜 拝