「ああ……独りごちて悪かったね。ラヴェルのご祖父とは旧知の仲なんだ。彼の腕は神の如くと言っても過言ではなかった。そんな彼の遺作が、あんなことを招く筈はないからね」
「そうなんですか……でも、あの……遺作って……?」

 あたしの問いにつぐまれた唇。ふと現れた(わび)しそうな面差しは、あいつの時々見せる寂しげな表情と重なった。

「彼もあの化け物に殺されたそうだ……私の息子と同様にね」
「……」

 ラヴェルの、おじいさんも……。

 刹那顔をそむけてしまう自分が居た。ギュっと(つむ)った瞳から涙が零れ落ちそうになって、思わず隠すように、抱えた膝に顔を(うず)めてしまう。

 どうして……どうして皆あの化け物に愛する人を奪われるの?

 泣かないでと訴えるが如く、あたしの足の甲に顎を乗せたアイガーが潤んで見えた。強ばった肩を柔らかく包み込んでくれる、ロガールさんの厚い手が温かくて優しくて……おじいちゃんのしわくちゃな掌が思い出された。

 今ならばきっと尋ねた全ては語られるだろうに、あたしの徐々に大きくなる泣き声は()()なく、涙は結局言葉にはなってくれなかった──。







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