「ラヴェルは相当負担を溜め込んでいるな。あの髪色は尋常じゃない」
「──え?」

 つま先を見下ろしていた視線を刹那上げる。あいつの髪って、染めてるんじゃないの?

「彼の髪は元々薄紫だ。が、毛先が黒々としているだろう? あれはあの『術』の副作用だよ」
「そんな……」

 人間に有り得ない薄紫色の髪。信じられることではないけれど……でも思えば、此処まで信じられないことばかりだった。ツパイの成長が緩やかなことも、あいつが他人の苦しみを吸い取ることも。

「ユスリハは彼と出逢ってすぐ、右眼の違和感にも気付いたそうだね?」
「え、ええ……」

 驚きの(まなこ)がその問いに震える。震えなかった瞳──でもあたしが義眼だと思った右眼は、あいつの本物の瞳だった──。

「あれもまた『影響』だな。ラヴェルは……昨夜私に義眼の不調が災いしているのだと嘘をついたが、それくらいお見通しさ。……デリテリートの義眼が、逆の眼にそんな悪影響を与える訳がない」
「……ロガールさん?」

 真っ直ぐ先の空に向けられた横顔は、どうしてだか悔しそうに唇を噛んでいた。ロガールさんも気付いたんだ……時折神経が断ち切れたように動かないあの眼に。でも、その表情は一体……?