気を失ったラヴェルを隣家に運ぶのは結構難儀だった。あたしの肩に片腕を回させ、ほぼ両足を引き摺らせながらも何とか小屋の出口まで行きつく。其処でやっと放牧から戻ったロガールさんが駆けつけ、代わりに軽々と寝室まで運んでくれた。

 ベッドに横になったラヴェルは、まるで死んだように息遣いも聞こえないほど静かに眠っていた。傍らにはロガールさんとピータン、床にはアイガーが心配そうにうな垂れて看てくれているので、ひとまずリビングに移り二人で食卓の席に着く。ヘの字に曲がったあたしの口元を認めて、ツパイもついに口を開いた。

「許可は下りていませんが……少しお話しせねばなりませんね」

 ためらいがちの言葉に、あたしは無言で頷いた。

「ラヴェルが説明したかと思いますが、僕達は或る物を求めて旅をしています。その或る物とは元々ラヴェルの物でしたが、半年程前に無理やり奪われてしまいました」

 息継ぎの為なのか、理解したとの相槌が欲しかったのか、一旦会話を途切れさせたツパイは、少し俯きがちだった顔をあたしへと上げた。

「今彼が旅をしながら立ち寄り行なっていることは、元来その或る物がなければ出来ない行為なのです。ですから彼が今回こうなったのも、その無理が(たた)った結果と云えます」

 或る物って? 行為って?? ──あ……テイルさんの悲しみを癒したこと? そして今回……アイガーが体力を取り戻したのも??

「ツパイが渡したお薬で、テイルさんもアイガーも元気になったんじゃないの!?」
「あれは『キッカケ』なだけであって、それを発動させているのはラヴェル本人です。彼は……責を負おうとしているのですよ。盗まれてしまった自分に非があるかの如く……そんなことは一切ないのですが……根っからの頑固者なのです」

 ラヴェルは盗まれた責任を取ろうとしている……あんな唐変木(とうへんぼく)みたいに何を考えているのか分からないあいつが、そんな何か大きなことを背負っているなんて──盗まれた……盗むと言ったラヴェル。それがツパイの台詞とリンクした。