が──その時。

 家畜小屋の奥から犬の鳴き声が徐々に近付いてきたのだ。って、犬って、アイガーしか居ないわよね?

「ア、アイガー!?」

 閉じられた扉を内側からガリガリと(こす)られたので、あたしが開くや白黒の影に飛びかかられた。すっかり元気になって真上に(またが)った姿は、あの時のテイルさんの変貌振りに似ていたけれど、何かを訴えかけるように吠えるのを()めないことには少し違和感があった。

「アイガー、ラヴェルに何か遭ったのですね?」
「えっ?」

 すぐ横で傍観していたツパイが呟いて、それに反応したアイガーが振り向き一吠えする。ツパイはキッと扉の向こうへ顔を寄せた。誘導するように走るアイガーの後ろを二人で急いで追いかけた。

 先刻までアイガーの横になっていた突き当たりには、先程までのアイガーと同様、ぐったりと倒れ伏したラヴェルが居た──。



■アイガーのモデルはボーダーコリーです。





■分かり辛いですが、以下が名前の由来となりましたスイスの山、左端がアイガー、右端がツパイの名前の一部、ユングフラウです。