「それでは、ロガール。『お目当て』の所へ連れていってくれます?」

 朝食を済ませ、ツパイとあたしが片付けを終える頃。のんびりロッキングチェアでお茶を(たしな)んでいたラヴェルは、そう言いスックと立ち上がった。

「ああ。だが……本当に連れていくのか?」
「貴方が構わなければ」

 ラヴェルの微笑みに、苦笑いで頷くロガールさん。お目当てを連れていく……誰か他に居るの?

「こっちだ。ユスリハも来るかい?」

 ロガールさんは扉に手を掛けながらあたしへ振り返った。ラヴェルと共に事情を分かっていそうなツパイに続けて、あたしも慌ててその後を追った。

 向かった先は併設された家畜小屋だった。先程の美味しい牛乳を提供してくれた茶色や灰色の牛が十数頭、白馬二頭の向こうには、羊や山羊が沢山居る。親達の間に隠れた子羊や子山羊が、大勢の人間に驚いたように可愛い高い声を上げていた。

「もうすっかりおいぼれだぞ。それでもいいのか?」
「理由が別の所にあるのはロガールも分かっていますよね? 元気になりますよ」

 再度念を入れて確認する問いに、自信を持って答えるラヴェル。二人が立ち止まった一番奥の壁の下に、ぐったりと横になった痩せこけた犬が見えた。

「名前はアイガー。これでも立派な牧羊犬だったんだ」

 ロガールさんは腰を屈めながら、毛足の長い白と黒のお腹を優しく撫でた。息遣いも荒く、辛そうに伏せられていた瞼が僅かに開かれ、主人の憐みの言葉に申し訳ないと詫びているようだった。

「アイガー、ラヴェルだよ。……ツパ、例の物を」

 同じようにしゃがみ込み額に触れたラヴェルが、背後のツパイに手を差し伸べる。ツパイは無言で首肯し、何やら懐から小さな革袋を手渡した。

「悪いのだけど、アイガーと二人にしてくれる? ピータン、君もだ」

 沢山の動物達に怯えるように、ラヴェルの首の後ろにしがみついていたピータンを、あいつはそっとツパイに託した。目配せされたロガールさんも意を汲んだように、あたし達を外へ(いざな)いながら、次々と小屋の留め具を外して、全ての家畜を裏山へ放牧した。