「ご無沙汰しておりました、ロガール様」

 ロガール──さ、様!?

「うむ、ユングフラウか。久しいが……余り変わらぬな。未だ時間を『止められて』いるのか」

 ユングフラウ……ツパイのラストネーム? 時間を止められているってどういうこと??

「いえ、今は自ら『止めて』おります」
「変わった奴だ。それだけ止めたらもう脅威は有り得ぬだろうに」
「いいえ……壮年以外の者は全て標的の模様ですから。となれば既に意味をなさないとはいえ」
「……そうか」

 良く分からない会話が数回交わされた(のち)、寂しそうに(しお)れていったロガールさんの表情は、やがて気を取り直すように無理やり口角を上げた感じがした。テーブルの傍で静観していたあたしの許へ寄り、桶の中身を自慢するかの如く覗かせた。

「わぁ~搾り立てのミルク! それもこんなに!!」

 案の定驚きを見せたあたしの反応に、嬉しそうな笑顔を見せる。

「いつもは山羊のミルクだがね。今日は貴重なお客様だからの。売り物の牛乳をたっぷりご馳走させておくれ」
「ありがとうございます!」

 元気一杯のあたしのお礼に、ロガールさんは益々(まなこ)を細めた。

 ちょうど良く整ったラヴェルお手製の朝食と共に、フレッシュなミルクは四人の胃の中へと、心地良く喉を通っていった。

 あたしのお腹の中では、疑問と疑惑がグルグルと渦巻いていたけれど──。