「あの……どうしてあたしの名前が分かったのですか?」

 男二人は黙々と食事を済ませるだけで、何処となく言葉が掛けづらかった為、食後のハニーミルクを頂きながら、湯浴みに出掛けたラヴェルの居ぬ間に尋ねてみた。

「そうさの……『血を継ぐ者』として、感じられる『匂い』さ」
「匂い?」

 洗濯物のタオルを畳みながら、再び細められる皺の寄った眼差し。

「お前さんの家族には居た筈だ。薫りの調合師が」
「あっ──」

 その言葉にあたしは、背もたれに預けていた上半身を思わず起こした。薫りの調合師──確かに……あたしの母さんは香水を作る仕事をしていた──。

「それってどういう意味ですか? ま、まさかあたしにもその香りが染みついているってこと!?」

 両手に持っていたマグカップをテーブルに預け、興奮気味の顔を……鼻先を、その『匂い』を嗅ぎ取ろうと自分の肩に寄せる。ロガールさんはあたしの様子に一瞬目を丸くしながらも微笑んで、

「実際匂っているかと言ったら違うのだろうな……『血』が感じるのだよ。が、普通はよっぽど近くへ寄るか触れなければ分からないのだが。この歳になれば仙人の如く、かの。いや、まだまだもうろくしていない証拠か!」

 と、自分の言葉で豪快に笑い出してしまった。