荷を背負い、十分ほど平坦な草地を歩いた先にそのお宅は在った。丸太の組まれた山小屋風の家屋は、右奥に同じ素材の大きな家畜小屋を伴い、裏側には尖った杉の生い茂る、黒々とした山々が(そび)えている。

「こんばんは、ロガール。約束通り来ましたよ」

 ロガールって人が住んでいるのね。今度は……テイルさんみたいに打ちひしがれていないでしょうね?

 扉の横の窓からは『人が真っ当に住んでいる』ことを裏付けるように、ちゃんと灯りが零れていた。微かに窓辺が揺らぎ、すぐに大きな人影があたし達の目の前に現れた。

「ラヴェルです、ロガール」

 何でわざわざ名乗るのよ? 知り合いじゃないってこと??

「デリテリートの子孫か。随分大きくなったものだな。意外に早かったじゃないか」

 デリテリート?

「……そちらのお嬢さんは?」

 ラヴェルに声を掛けた後、白髭を蓄えたがたいの良い老齢の男性は、フッと瞳を細めてあたしを見た。

「ユ、ユスリハと申します、ロガールさん。えと……」
「ふぅむ……もしかしてミュールレインの子孫か?」
「え!?」

 あたしは話途中で返された質問に、心の底から驚いた。どうしてあたしのラストネームが分かるの? この人は一体……?

「まぁ中に入りなさい。夕食は? ──そうか。こんな(じい)の手料理で良ければシチューがあるぞ」

 ロガールさんは奥へ手招きしながらラヴェルに問い掛け、まだ食事前だとの答えに快く対応してくれた。ダイナミックな具材の煮込まれた、それでも十分美味しいシチューとパンを、あたし達に振舞ってくれる。