「いえそんな、返してくださらなくても良かったのに……洗濯まですみません。マフィンも……とても良い香りですね。ありがたく頂きます」

 受け取りながら気恥ずかしくなった。まだこの地に残っているというのに、あたしは自分のことばかりで、見送りまでしてもらえるなんて思いもしなかったのだ。

「ねぇねぇお兄ちゃん、次は絶対だよ!」

 隣でラヴェルは昨夕せがまれた、次回の飛行船遊覧の約束について念を押されていた。少し困ったように笑いながら「大丈夫だよ。もし自分が果たせなくても、このお姉ちゃんが叶えてくれるから」──そう言った。それってどういう意味よ。責任転嫁するつもり??

「素敵なご主人がいらして幸せね、ユスリハさん」
「……は?」

 ラヴェルに文句の一つでも言ってやろうと開きかけた口から、間抜けな一文字が現れて、あたしは咄嗟にテイルさんの方へ顔を戻したけれど、

「じゃあそろそろ行こうか、ハニー」
「は、は、は、はにぃ!?」

 ラヴェルの強引な左手があたしの肩を引き寄せ、右手は別れを示すように皆へ振りながら、弁解する前に扉は閉じられてしまった。ちょ、ちょっと待って! 違うでしょ!!

「お気を付けて~!!」

 聞こえはしなかったけれど、ガラス窓の向こうで手を振る皆の口元は、そんな言葉を発するように大きく動かされ笑顔で溢れていた。本当に……これで良かったのかな。

 独り操船室で滑らかな離陸を披露するラヴェルにはついて行かず、皆と同じ表情で見送りに応えるあたしは、心を沈ませながら碧い空へと浮上していった──。



      ◆第二章◆好ましい未来とは!? ──完──