翌朝はやけに空気も音も停滞して感じられた。仕方なくといった様子で起き出し、立ち上がって思い出した。そうだ……ツパイ、また三日間起きないんだ。嫌だな……ラヴェルと二人きりなんて。契約解消してお家に帰ろうかな。

 それでもウエストに会える可能性があるのだと考えれば、自分からは破棄出来ない気持ちがした。それに……あの化け物と独りきりで遭遇するなんて、絶対考えたくもない!

「おはよう、ユーシィ」

 あいつは変わらず昨日までのあいつで、野菜を刻む手を止め、にこやかな笑顔で挨拶した。

「……おはよ」

 やっぱり気まずいよ。盗み聞きしていたことに気付かれたことも、教えてほしいと願っているのに、叶えられることのない不服が、顔に滲み出てしまっていることも。

 けれどあいつはそれきりあたしに声は掛けなかった。表情は穏和な微笑を(たた)えたまま、黙々と目の前で食事をし、片付け……やがて出発の頃、沢山の声が飛行船を囲んでいた。

「あら……ツパイちゃんはお寝坊ですか? ラヴェルさん、大変お世話になりました! ユスリハさん、遅くなってしまいましたが、お借りしたお洋服、本当にありがとうございました!」

 扉の先の真正面に布包みを抱えたテイルさんが立っていて、昨夜の内に洗ってくれたのだろう、あたしの衣服が戻ってきた。それと……焼き立てのマフィンという餞別が。