出立は明朝という話になったので、この晩も揺れることのない飛行船内のカプセルにて就寝となった。静けさ漂う真夜中、微かな振動に気付き、暗闇の中でふと目には見えない天井を見詰める。ツパイ? 起きているのだろうか?

 それからしばらくして、あたしの足下に着地した音と気配を感じた。そう言えば……今夜ラヴェルに説教を唱えるって言っていたっけ。聞き耳を立てたら、あたしにも聞こえるかしら?

 まもなく隣のカプセルからも人の気配が現れたので、あたしは狭い寝台の中、音を立てないようにどうにか身体を上下反転させる。僅かに扉を開いて耳をそば立てた──ところ、

「あれ……誰も居ない」

 暗闇は一部ですら明るく照らされることはなく、沈黙も音を奏でることはなかった。あたしは拍子抜けしてリビングに躍り出た。もしかしたらよっぽどの長い激しいお説教で、此処では起こしてしまうからと、外へ出たのかも知れない。

 こそこそと階下を目指し、辺りを警戒して扉を開く。降ってきそうな満天の星空の下、ほんのりとした灯りを右手の方から感じたので、二人は船首に近い草むらに居るのだろうと、ゴンドラの側面をそろそろと進んだ。やがて操船室のすぐ外側に大小並んでしゃがみ込む背中を見つけた。