「まぁ! ユスリハさん!! 昨日は本当にありがとうございました!!」
「あ……はぁ?」

 テイルさん宅の門扉を開いたところで、急に下から現れた影と大声に抱き締められ、あたしは驚き硬直した。

 数秒して解き放たれた先には笑顔のテイルさん。ほ、本当だ……昨日の瀕死とも言えた彼女とは思えないこのはつらつ振りは一体何だ??

「ず、随分お元気になられたようで何よりですーもうこんなに動いて大丈夫なんですか?」
「はい~すっかり! ラヴェルさんもツパイちゃんも良くしてくださって! 大変お世話になりました!!」
「い、いえ。あの、二人は中に?」

 テイルさんは再びしゃがみ込んで、庭の草取りを始めながら、

「ラヴェルさんは畑を耕しに行ってくださっています。この辺りは二期作なので、今から土を蘇らせれば、小麦の種まきに間に合うでしょうと。ツパイちゃんは多分キッチンの片付けを終えて、リビングの床を磨いてくれているのではないかと……本当に何から何まで、申し訳ないのですけれど……」

 と、少し恥ずかしそうに説明してくれた。

「どうかお気にされないでくださいね。草取り手伝いましょうか?」
「いえいえこれくらいは独りで十分です。宜しかったらお茶を沸かして、お二人に休んでいただいてください」
「あ、はい。では用意が出来たらテイルさんも呼びますね」

 あたしは目の前の生気溢れる女性に目を白黒させながら、ともかくいそいそと家の中を目指した。

「ツパイ~居る?」

 キッチンでケトルを火に掛け、リビングの扉から声を掛けて入室する。隅に在る書斎机の下からもぞもぞと現れたのは、四つん這いで床を拭き上げているツパイだった。

「ごめんね~遅くなっちゃって。今テイルさんに頼まれて、お茶の準備しているから少し休んで」

 起き上がったツパイの口元が上向きの弧を描き頷く。あ、そうだ……ラヴェルの居ない今なら──。

「あの、ツパイ。あたし幾つか訊きたいことがあるのだけど」

 今度は下向きの弧を描き、首を横へ(かし)げるツパイの様子に、あたしは僅かに緊張感を覚えた──。