「……うぅ……」

 恐怖の余り、つい震える声が洩れてしまった。右肩に掛かる僅かな『重みとぬくもり』が、あたしに危害を加えないよう、とにかく振動を発せず歩く。テイルさんの家どころか集落にもまだまだの小麦畑だなんて、あたしはこれからどれだけエネルギーが必要なのか!?

「お姉ちゃーん!!」

 ビクッ!!

 けれど遠く背後からの呼び掛けに、あたしの肩は大きく波打ってしまった。『重みとぬくもり』が咄嗟に立ち上がり声の先へ振り返る。そう……どうしてだかラヴェルと一緒に出掛けていった筈のピータンが、飛行船から出てきたあたしの許へ舞い戻ってきたのだ。

 ラヴェルの所へ行かせないようにしているのかしら? このまま先へ進んだら噛みつかれる……??

 そんな疑問と不安を抱えながら、出来るだけ彼女の気持ちを逆立てないよう静かに麦畑を進んでいたのに……『お姉ちゃん』ってあたしなの?

「お姉ちゃんったら! どうして止まらず行っちゃうのさっ」

 やっぱりあたしか……。

 幾つかの声と足並みが真後ろで止まり、あたしは仕方なくカタカタと小刻みに振り返った。昨日飛行船を興味深く覗いていた子供達が、あたしの目の前に集まっていた。

「わー何それ! 可愛い~!!」

 耳をピクピク辺りを聴き取ろうとするピータンを見つけて、子供達の大歓声が響いた。この子……子供にまで噛んだりしないでしょうね?

「モ、モモンガよ。あたしの連れの」

 と、途端にピータンが真ん中の男の子の掌に飛び移った。

「ちょっ、ピータン!」
「ピータンって言うの? 可愛いなぁ~」

 あれ? なつっこい? いや……相手が『オス』だからか??