「ユーシィ、準備OKだよ。おばさん、さぁ行きましょう」

 ラヴェルはそう言いながら現れて、衣服が汚れることも構わず、軽々とテイルさんを抱き上げ運んだ。あたしも手元の荷物から自分の衣類を取り出し続く。こいつにも両親は居るのだろうし、自分の母親と重なるものもあるのだろうな、と考えながら。

「じゃあ宜しく頼むね、ユーシィ。自分はちょっと買い出しに行ってくるから」

 洗面所にしつらえられた椅子へ彼女を降ろし、ラヴェルはあたしの肩をポンっと叩いて出ていってしまった。テイルさんは未だ気だるそうな動きではあるけれど、申し訳なさそうに自ら衣類を脱ぎ立ち上がろうとしたので、手を貸して浴室の小さな腰掛けに座らせた。

 質素ながらそれなりにスペースがあり、壁際に大きな樽桶が二つ。一つは井戸の水と、もう一つは沸かされた少し熱めのお湯がなみなみと入っていた。それに浮かべられた手桶に両方を(すく)い、 ちょうど良い温度にされた湯を背に注ぐ。刹那、骨ばった皮だけの赤茶色い背中が、雪のような白さを取り戻して……この身に染みついた汚れは、きっと悲しみの深さだったのだろうと思えば、目を逸らさずにはいられなかった。

「あ、おかえり~」

 湯浴みを終え、普通のご婦人に戻ったテイルさんが、あたしの洋服に身を包み、再び席に戻って十数分。先に供したお茶を温め直し、飲み終えた頃にラヴェルが戻ったので、あたしはスープを火に掛けた。

「ありがとう、ユーシィ。おばさん、調子は良くなりましたか?」

 感激の涙を目に一杯溜め、感謝を繰り返すテイルさんを(なだ)めたラヴェルは、キッチンに立つあたしの隣に買い出しの荷物を広げてみせた。

 彩りの良い野菜が数種と、焼き立てのパンが数個。飛行船用も兼ねているらしき小麦粉に、ベーコンとミルクとバターと卵。少し長細いお米もある。