──ガッシャーン!!



 まるでそんな擬音が見えそうな、耳をつんざく音だった。

 独りキッチンで朝食のスープを作っていたあたしは、思わず慌ててお玉を手にしたまま表に飛び出していたんだっけ。ささやかな花壇の向こうの広い家庭菜園に、大きな飛行船がもうもうと灰色の煙を巻き上げて、まさしく不時着していた。

 その粉塵を吸い込んでしまったのだろう『そいつ』が咳き込みながら現れたので、取る物も取りあえず救助に向かってやったというのに……飛行船の修理までやってあげたというのにぃぃぃっ!!

「とにかく気嚢(きのう)に穴が開かなくて良かったわね。これでもう大丈夫。ちゃんと飛べる筈よ」

 損傷箇所の全てを修繕してチェックを終えたあたしが、そう言いながら振り向いた途端、その『洗礼』は待ち構えていたのだ。ああ~もう~~思い出したくもないっ!!



「とにかくっ! もう万事OKでしょ? お礼はいいから早く飛んでっちゃってよ! そうでなくてもうちの畑、大損害なんだからっ!!」

 あたしはしばしの回想に幕を閉じて、正面に立つ『そいつ』に再び噛みついた。
 まったく……周りは平坦で広大な牧草地なのに、よりによってうちに落ちてくるなんて~!

「いえいえ、そんな訳にはいかないでしょう。もちろんお詫びとお礼はさせてください。それと……先程の口づけもちゃんと『なかったこと』に致しますよ」
「あぁ……はぁ!?」

 いい加減会話も面倒になったあたしの両手を取り、『そいつ』がおもむろに掌に乗せた物とは──

「うっそ……!」

 零れ落ちそうなほどの煌めく金貨! そして見上げた視線の先に──



 =『なかったこと』に、致しませんか?=



 不敵に口角の上げられた微笑みと、自信みなぎる漆黒の瞳があった──。