自分の衣服一式を二点、それから頼まれたパスタ数束に、スープの残りを小鍋に移して、あたしが取り急ぎ戻った頃には、もうあばら家はまともに暮らせる住まいに変貌していた。

「こ、これ……全部あんたが片付けたの!?」
「ん? まぁね」

 何処からか見つけ出してきたのだろう丸いテーブルが一台、テイルと呼ばれた中年女性は物静かに席に着いていて、温かなお茶を差し出したラヴェルは、こちらを振り返ってニコりと笑った。

「湯浴みの準備をしてくるから、それまで彼女を看ていてくれる? それと……悪いのだけど、手伝ってあげられるかな? さすがに自分が背中を流すわけにはいかないからね」

 こくんと一つあたしの頷きに満足して、あいつは早速支度に向かったけど……どうせ女性の背中なんて、沢山見てきたんじゃないの!?

「本当に……すみません。息子のお友達に、こんなに……していただいて、しまって……」

 あの透け透けネグリジェを思い出して、思わず脳天に血が昇りそうだったあたしは、掛けられたか細い声に思わずかぶりを振っていた。

「いえっ、あーあの、テイルさんと仰るんですよね? あたしはユスリハと申します。ご気分はいかがですか? 湯浴み、出来そうです?」

 震える頼りない両手でカップを持ち上げ、僅かに唇を潤したテイルさんは、その温かみに癒されたように、砂にまみれた頬をほんのり色づかせた。そこには縦に幾筋もの跡があって、きっと先刻の涙に違いない。

「ええ……随分楽に……ユスリハさん、ありがとうございます」
「あ、あたしは、特には……」

 もしも、あの時。父さんと母さんではなく、あたしがあの化け物に殺されていたら。あたしの両親もこんな姿に朽ちてしまったのだろうか。何も手に付かず、ただ生きているだけの、空っぽな人形に。

 けれど今は再び芽吹こうとする、あたかも新芽のようなエネルギーの兆しが見えた。この希望を与えたのはラヴェルだ。でも……もし(さら)った化け物が()()化け物であったなら……本当にレイさんは戻ってくるのだろうか?