一体どういうことなの? あいつは何しに此処へ来たのよ……??

 あたしは言いつけられた用を済ませに、飛行船へと来た道を戻っていた。

 あれからラヴェルは引き閉じられていたカーテンを全て寄せ、風を通す為に窓も押し開き、暗く淀んだ部屋の空気は一気に爽やかな光となった。

 それを眩しそうに弱々しく手を(かざ)した女性は、埃まみれのぼろきれを(まと)っていて、ラヴェルは湯浴み出来るようにと裏の井戸から水を運び、あたしは飛行船のあの寝台上段右側にある、「タラ」という人の衣服を二着拝借してくるように頼まれた。それと……まだ何とか一人分残っているあたしのスープとパスタ数束も。

 そりゃああんな姿を見てしまったら、手助けせずにはいられないだろうけど、あいつは本当に彼女の息子さんから(ことづか)ってきたのだろうか? 第一『窃盗』ってなんなのよ! あいつはあんな何にも持たない女性から、何を盗もうって考えてるの!?

 訳の分からないことが多過ぎて、ぶつぶつとぼやきながら丘を登ると、飛行船の前には小さな子供達の山が出来ていた。気にせず進んでいったが、あたしに気付いた子から伝播するように、全員が次々と散らばって逃げ……まるで蜘蛛の子を散らすようだ。

「別に逃げなくたっていいじゃない。怪しいもんじゃないから出てきなさいよ」

 ゴンドラの入口に手を添えて、飛行船の裏へ隠れた子供達に叫んだ。やがてヒョコヒョコと小さな頭が覗き、つぶらな瞳がこちらを見詰める。

「飛行船、珍しい? 壊さなければ、触っても大丈夫よ」

 ゴンドラの壁には小さな手形、ならぬ手垢がペタペタと貼り付いていた。咎められないことに安堵したのだろう、恐る恐る歩み寄った子供達は、好奇心の瞳であたしに質問をした。