「ええ、息子さんの。彼から(ことづ)けを頼まれました。“今は戻れないけれど、ずっと愛しているから”と」

 女性の(うつ)ろな瞳が仄かな光を生み出した感じがした。

「あ、あの、子……死んだんじゃ……。い、生きてる……の、ね? ……そうなのねっ!?」

 途端、息つく間も惜しむように言葉が溢れて、その問いに大きく頷いたあいつの頭が戻った時、女性は両手で顔を覆い、涸れ果てていた涙を取り戻したようだった。ううん、それは涙じゃない。取り戻したのは、きっと『希望』だ。

「さぁ、息子さんの為にも元気になってください。精のつく物を食べて、家も綺麗に整えて。自分達もお手伝いしますよ」
「あり、がとう、ございます……ああ、ありがと……ありがとう!」

 ラヴェルは女性の肩を優しくさすり、お礼の言葉を言いながら泣き続ける彼女の前に立ち上がった。それからこちらを振り返ってあたしにウィンクをしたけれど──って……?

 精のつく食べ物って、家を綺麗に整えるって……『自分達』って──

「あ、あたしもっ!?」

 ニッコリこちらにも大きく頷いたラヴェルに、自分で自分を指差したあたしはやはり、再びの大口を開けていた──。