一段高くなった丘を下り、小麦の波が続く端の(あぜ)を抜ける。薫る風に心躍らされながら、見上げた向こうに幾つかの民家や店が並んでいた。

 ラヴェルは特にどの小麦農家や商店に依頼しようかと見極めるつもりはないらしい。それとも知人でもいるのだろうか。目指す先は決まっているようで、迷いなく真っ直ぐ通りを進みに進んで……って、その集落を抜けてしまった。

「分けてもらうんじゃなかったの? 一体何処へ行くつもりなのよ」

 頭一つ分高い程度の身長なのに、いやに一歩が大股なのか、ゆっくりな足並みでもこちらは小走りにならざるをえない状態で、僅かに息を切らしながら尋ねた。

「うん、そうだよ。あ、ほら此処」
「──え?」

 ラヴェルが立ち止まったので同じくブレーキを掛けたが……いえ、嘘でしょ? これ、民家じゃなくてあばら家よね?

「あんた……この何もなさそうな家から何をもらおうって言うのよ?」
「んー、貰うって言うか、勝手に頂くから、どちらかと言えば窃盗なのかな」
「はぁっ!?」

 思わず大口開けたまま固まってしまったあたしの見上げる顔に、相変わらずの朴念仁(ぼくねんじん)な笑顔が焼き付く。いや、おかしいでしょ! どう考えたっておかしいでしょ!!

 と共に納得するものもあった。もしこいつが本当に泥棒ならば、あれだけの金貨を持っていてもおかしくないのかも……もちろんこれほど貧乏そうな家を狙うこと自体には、納得がいかないけれど。