タラは閉じられたレストランの前を横切り、停留所で朝一番のバスを待った。

 五分遅れでやって来た車輌で戻り、荷物を(まと)めて宿をチェックアウトする。何気なく思い立ち、仕事を与えてくれたあの公園に足を伸ばした。一昨日と同じように幾つかのパラソルが開き、あの水晶占いの老婆も──今度はしっかり存在していた。

「おばあさん、先日は予見をありがとう。お察しの通り、彼に会ったわ。で……ワタシ、故郷に帰ることにしたの。今までお世話になりました」
「そうかい……それは何より。道中お気を付けて、良い旅をね」
「ありがとうございます。さようなら、おばあさん」

 まだお客の来ていない出店の前で、占い師と挨拶を交わし、荷物を抱えて駅を目指す。この時間なら今日中にパリに戻れる筈だ。そうすれば翌日のヴェル行き飛行船で一泊、明後日には帰郷出来る。

 マルセイユ駅行きのバスを掴まえ、颯爽と乗り込むタラ。心はいつしか弾んでいた。久方振りに見るヴェルの様子に、気付けば思いを馳せていた。

 到着後早速チケットを買ったが、発車時刻までにはまだ間がある。駅構内のカフェで遅い朝食を取り、まもなくといった時分ホームに移動したその背中に……大きな声が呼び掛けた。