十数分後、両手に沢山のボトルを抱え、俄然やる気を出したシアンが意気揚々と戻ってきた。右手には大きなワインクーラーに、氷で冷やされた白ワインが二本、左手には常温の赤ワインが網状の手提げに三本、更にクーラーの中からは、密閉容器に入れられたシーフード料理が数品取り出された。

「一体何時まで飲み明かすつもりなの? 真っ暗闇の中で呑み続ける気!?」

 タラは目の前のボトルの数に、思わず仰天の声を上げた。せめて薄紫に染まる岩壁を見届けたら、店に移るのかと思っていたのだ。

「ランプを借りてきたから大丈夫だよ。それに陽が落ちても戻ってこなかったら、ヴァレリーが上からライトアップしてくれる手はずだから」
「まったく……用意周到ネ」

 呆れながらも容器の蓋を開いて、二人の間に並べていく。その中の一つは香り高いブイヤベースだった。

「どれから楽しもうか?」
「シーフードも登場したことだし、その良く冷えたカシ産の白がイイわ。折角マルセイユに来たのに、まだ味わっていないのヨ」

 カシとはマルセイユの東の町、白ワインで有名なブドウの産地だ。フルーティな辛口の白が、ブイヤベースに良く合うとの触れ込みだった。

「いいね。ブドウの品種はクレレットだってさ。ってことは結構度数が高いから、一本目で勝負がついたりして?」
「さすがにそんなに弱くはないわ」

 お互い自信を含んだ笑みを刻み、注がれた透明な液体を掲げる。闘い(?)を告げる乾杯の音が涼しく響き、二人の(うたげ)が再び始まった。