「そっか、残念。君みたいなお洒落な女性が、知っていてくれたら光栄だと思ったのだけど。まぁ僕のことはこれから追々ね……ひと月前から仕事で此処へ来ているんだ。と言っても一昨日それも無事終えて……翌日の昨日、君とこうして出逢うことが出来たのだから、今回の企画には深く感謝をしなくちゃいけないな」

 それからシアンは同じように、右手で頬を突き微笑んだ。言葉の節々に彼女への好意がちらついていることは、タラ自身にも感じ取れる。が、二物を神に与えられたこの若者が、自身の魅力にしっかり気付いているからこその言動なのだろう。ヴァカンス気分でひと時の快楽に付き合わされるなら御免だ。タラは特に誘いに乗る気を見せず、すぐに話題を変えようとした。

「マルセイユの人じゃないのネ。ならそろそろ他の地へ?」
「いや、次の企画はまだ先だから。一旦国へ戻ろうと思っていたけど……君がしばらく此処に居るなら考え直そうかな」

 シアンはそう言いながら姿勢を正し、タラを真っ直ぐに見詰めた。

「あんまり年上をからかわないで」

 タラも頬杖をやめ、その熱視線に困り顔を向ける。シアンの真剣な表情は、その途端に驚きを見せた。

「ん? 僕の年齢知ってるの? そんなに変わらないだろ??」
「知らないけれど、年上ではないと思うわヨ。ワタシを一体幾つだと思っているの?」
「え、君って何歳? 僕は二十七だけど」

 タラもまた驚いたように目を見開いた。

「イヤだ……ラウルよりも年下じゃない! それに女性に年齢なんて訊くものじゃないわヨ」

 ラヴェルはタラの六歳下だ。シアンはそれよりも一歳若い、つまりタラより七歳も年下ということになる。