「明日も此処に居るの?」

 青年はそう問い掛けながら広場をぐるりと見渡した。周りの出店は依然盛況で楽しそうな賑わいだ。

「どうかしら。気ままな旅商売だから」
「僕は明日もまた会える気がしているけどね」
「え?」

 今一度かち合った瞳の先は、やはり不思議そうな彼女の眼差しと、自信あり気な彼の面差しだった。

 ──これって新手の口説き文句なのかしら??

 これまでも幾つも誘いをかわしてきたタラだが、「以前会ったことがありませんか?」という問い掛けならともかく、未来を予測しての宣言は珍しい。とは言え、もう三十路(みそじ)も半ばとなった自分に、興味を抱く若者などそうは居まい。タラは青年の言葉を受け流すことにした。

「それじゃ、ワタシは行くわネ」
「ショール、本当にありがとう。また明日!」

 青年は手にした薄紫を大切そうに掲げ、笑顔で手を振り(きびす)を返した。

 ──明日なんて誰にも分からないわヨー。

 心の声で返事をしたタラは、鞄を手に取り逆方向へ歩き出す。先程示した水晶占いの店先を通り過ぎようとした時、占い師の老婆がそっと声を掛けた。

「お前さん、本当にあの若者と再会することになるよ」
「え?」

 もう今日何度目か知れない驚きの声を上げて振り向いた。けれど席には誰の姿もおらず、ただテーブルの上の水晶が陽に晒されて輝いていた──。