「僕も占ってもらえるかな?」

 長い影が腰掛けたままのタラを包み込んだ。見上げれば背の高い青年が、興味深そうに彼女を見下ろしている。タラよりも幾つか年下のようだ。鞄をひとまず隣のチェアに戻し、タラはテーブルに両肘を突いて、困ったように首を(かし)げてみせた。

「タロット・カードを操る魔女にでも見えちゃったかしら?」
「え?」

 軽く驚いたような声を上げた青年は、先程までお客の女性が座っていた足元の席に腰を下ろした。

 ヘーゼルナッツ色のサラサラな髪と、ブルーグリーンの鮮やかな瞳が印象的だ。その目を丸くしてひたすらタラを見下ろす表情は、同じように困った様子にも見える。タラは片付けたカードをしなやかに広げてみせた。その指先に惹きつけられたように、青年の視線は右から左へと流れ、全てを目に焼き付けた。

「占いならお隣さんヨ。タロットではなくて、水晶みたいだけど。ワタシはカラーセラピスト。残念ながらアナタの未来は占えないわ」

 そう言ってカードを綺麗に重ね、左隣の出店へ鼻先を合わせた。青年の顔も釣られたように美麗な横顔を見せる。

「ああ、失礼。てっきり占い師かと……カラーセラピストって、何をするの?」

 タラはタラで、てっきり占いを求めてやって来たのだと思っていた青年が、こちらの商売に興味を示したのは意外だった。カードをしまおうとする手を戻し、

「今アナタに必要な『色』を教えてあげるだけ。このカードはその道具なの」

 もう一度テーブルに並べ、お客に向ける微笑みを刻んだ。

 印刷された色は全て違っている。この中から二枚、出来るだけ無意識に、インスピレーションに身を傾けて選ぶこと、更にそのお代もしっかり忘れずに伝えてみせたが、青年は迷うことなく紙幣をタラに手渡した。

「面白そうだね。でも僕が選びたい色はこの中にはない」
「え?」

 カードを見下ろしていた二人の瞳が上がり、刹那かち合う。不思議そうに瞬かせたタラの(みどり)色の(まなこ)には、食い入るように自分を見詰める青年の笑顔が映り込んだ。