「……ありがとうございます、『ラヴェル』」

 王は手を(かざ)しジュエルを瞼に戻した。途端投げ掛けられたお礼の言葉に、数秒キョトンとしてみせたが、すぐにその顔は満たされた笑みを刻んだ。

「さすが、呑み込みが早いね、『ツパ』」
「ツ、ツパ、ですか……?」

 嬉しそうなラヴェルの首がコクンと大きく頷く。そしてその時、ツパイは少しだけ分かった気がした。

「やっぱり君で良いみたいだね」──ツパイがラヴェルのお眼鏡に叶った理由、それは──



 ──『自分』を受け入れてくれたから、だ。



 自分の話に耳を傾け、その家族に言及し、我が身のことのように案じ、自分の希望に道筋を与えてくれた。

 そんな当たり前のやり取りが、デリテリートでもアイフェンマイアでも殆どなされなかった特殊な日常に、光明を差し込むことが出来たのかも知れない、と。

「今日はちょっとだけ時間があるんだ。ツパ、紅茶のお代わりはどう?」
「それではお言葉に甘えさせていただきます。ですがラヴェル、今度は『僕』がお()ぎしますよ」

 ツパイの敬語は変わらなかったが、もはやラヴェルを王とは扱わなかった。



 この時をもって、彼女は彼の『友』となり、且つ『同志』となる。

 けれどツパイがラヴェルの背を押し出す前に、再び凄惨な事件は起きてしまった。

 そして──



 (しがらみ)から逃れられない縛り付けられた日々を、彼女は『今』も過ごしている──。



◆この文末の『今』がいつであるのかは、続編にて語られる予定です。



◇相変わらず瞳を見せないツパイも再び◇