「君は……君も、今でも縛り付けられているのでしょ?」
「え……?」

 王の細い左腕が伸び、ツパイの前髪をいきなり一束摘まんで上げてしまった。誰にも見せたことのない右眼が、王の切なそうな表情を直接捉えた。

「あっ……」

 刹那慌てて瞳を伏せたが、その手を振り払うような所業も出来ず固まってしまう。

「三日間眠り続けることも、前髪で顔を隠すことも……やめないのはそういうことでしょ? ただ正直すぐに君を救えるとは、僕も思ってはいない。僕自身も縛り付けられたままだから。でも、いつか……僕は君を救うよ」
「……何故……?」

 発した小さな声が引き金となり、王は彼女の髪を解放した。

「僕達は『似た者同士』みたいだから」

 クスりと一つ笑った王は、おもむろに自分の左瞼から、『ラヴェンダー・ジュエル』を取り出し掌に乗せた。

「此処に、この『ラヴェンダー・ジュエル』に、我は誓う。ツパイ=ヴェル=ユングフラウ、(なんじ)(しがらみ)をいつの日か断ち切り、その身を自由にしてみせんと」

 凛としたその宣言に、ジュエルは一瞬輝きを帯びた。薄紫の柔らかな光が二人を包み、やがて再び元の義眼となった。